This is a Japanese translation of “We are in triage every second of every day

私たちはいつでもトリアージの真っただ中にいる。すべての人を救うことができる、いつかそんな日が来ることを強く願っている。しかしその日が来るまでの間は、資源をどう配分するかによって、私たちは人の生死を左右する決定を下しているという事実から目を背けるのは無責任だ。選択の余地などないかのように装うことは、私たちの意志決定の質を下げることにしかならない。

By Holly Elmore  2016年8月26日

この記事の内容は、効果的利他主義フォーラム・ポッドキャストシリーズ の一部としてポッドキャストでも配信されています。

神を演じる(原題:Playing God)

ネタバレ注意:あらすじを先に読みたくない方は、上記リンクからエピソードをお聴きください。

上述のRadioLabのエピソードは、非常に興味深い内容だった。テーマはトリアージ、すなわち救急医療の現場で患者に優先順位をつける実践だ。そこから転じて、トリアージは限られた資源を配分すること全般を指すようになった。このエピソードではトリアージをまるで稀な現象であるかのように扱い、アメリカではハリケーン・カトリーナ以前には医療トリアージ・プロトコルが真剣に考慮されてこなかったと示唆している。しかし実際には、トリアージは決して珍しいものではない。私たちはあらゆる意思決定の場面でトリアージを行っているのだ。

『Playing God(邦題:神を演じる)』に収録されたエピソードの中でも、特にハリケーン・カトリーナで停電に陥ったニューオーリンズの病院が数日間で地獄のような状況に転落した話は衝撃的だった。ニューヨーク・タイムズ紙の記者シェリー・フィンクは、著書『メモリアル:5日間の記憶』(原題:Five Days at Memorial)で報じた出来事について語っているが、その詳細はあまりに堪えるものだ。集中治療室の患者をまず避難させた後、エレベーターが使えないために残った患者の搬送に優先順位をつけざるを得なかった。ヘリコプターやボートの救援もまばらで、病院内には下水が逆流し、猛暑のため患者やペットが発作を起こす者もいた。一方、ニュースでは略奪や無法状態が過剰に報道されていた。それを聞いたスタッフの一部は、最重症の患者や搬送が困難な患者を安楽死させることが慈悲深い行為だと考え始めた。実際に複数の患者が安楽死させられたとされるが、関係者が起訴されることはなかった。悲劇的にも、安楽死が疑われるのは、救助隊の車両が到着したまさにその日だった。

この話の核心は、トリアージの論理に従うことで病院スタッフが滑りやすい坂道を歩んで「神を演じる」ことにもつながりかねないという点にある。そこでこのエピソードでは、トリアージを制度化し、極限状態でも個々の判断に委ねずに済む方法が議論されている。(功利主義的トリアージも取り上げられ、スピーカーたちが鼻をつまんで話している様子が目に浮かぶほどだ。)しばしば介護者側の良心が関心の的になるが、その背後にある利己性に気づく者はいない。トリアージはとても共感しがたいものとして描かれ、選択を迫られる人々に何らかの過失があるかのように扱われている。

しかし私をこの記事執筆へと突き動かしたのは、最後に紹介された別のエピソードだった。ゲストレポーターのフィンクは、アメリカが運営するハイチの災害救援病院で出会った女性、ナタリーについて語る。ナタリーは朗らかな中年女性で、呼吸困難を訴えて病院を訪れたことで命を救われた。地震発生時には自宅に家族全員がおり、家屋崩壊により家族は全員亡くなっていた。ナタリーは平静を装いながら生きていることに感謝し、自身が受けた治療に心から感謝の意を示していた。しかし問題があった。ナタリーは酸素を必要としていたが、その病院(いや国全体)には全員に行き渡るだけの酸素が不足していた。心不全を抱えるナタリーへの酸素供給を打ち切り、地元のハイチ人経営病院へ移送すべきだとトリアージ看護師は判断した。その決断を下した看護師がナタリー本人に会ったことすらないとフィンクは嘆き、まるでそれで判断が変わるかのように語っている。フィンクはナタリーと共に救急車に同乗し新たな病院へ向かったが、そこで酸素を受け取ることはできず、ナタリーはただ苦しげに咳き込むばかりだった。フィンクの心は痛んだ。しかしハイチの病院で対応した医師は、ナタリーの肺から水を抜く処置を行い、補助酸素なしで危機を乗り越えることに成功した。

この物語はフィンクに、選択そのものを拒否できるという幻想――選択に同意すること自体が行き過ぎだという考え――を強化させた。フィンクはナタリーに心を動かされ、アメリカへの人道的ビザ取得をサポートした。後にナタリーは心臓移植が必要と判明し、移植を受ける前に亡くなってしまう。それでも、フィンクによれば、ナタリーは病院で出会ったすべての人に喜びをもたらし、ハイチの他の患者のために募金活動まで行っていたという。では、そんな彼女に生きる機会を与えるべきではないと言ったのは一体どの医師なのだろうか。

もちろん、この問い自体が誤っている。誰も心不全で苦しむべきではないのだから、ナタリーにはあらゆる機会が与えられるべきだった。しかしだからといっって、彼女があの病院で酸素を必要とする他の患者よりも優先されるべきだったのだろうか?そんなことは断じてない。ナタリーの生きた時間が、医師たちが酸素を慎重に管理することで救われた、他の患者が生きる時間よりも重要だったのだろうか?それもありえない。

このエピソードでは、トリアージから恩恵を受けた側の声は一切取り上げられていない。困難な状況下でスタッフが思い切った行動をとることで、どれだけ多くの命が救われたのかを検証する試みもない。ナタリーでなければ誰が死ぬべきだったのか?期待できる健康寿命が何年もある誰かだろうか、それとも同じ量の酸素で救えたふたりだろうか?あるのはただ、誰かが死ぬ必要があったという事実の拒絶だけだ。[トリアージのおかげで]救われた命があることは賞賛せず、損失回避だけがある。仮にフィンクが他の患者に会っていたとしたら、その人のことも死んでほしくないと思っていただろうし、ましてや個人的に会ったかどうかにかかわらず、人は誰しも重要である。フィンクにはその認識が欠けている。

自分の行動が与える影響に対する責任を軽率に放棄することを「神を演じる」とは言わないのと同じく、自覚的なトリアージでより良い選択をすることも「神を演じる」ことにはならない。どちらも、誰かを生かし誰かを死なせる選択である点では変わらない。唯一の違いは、トリアージを取り入れた人はよりよい帰結をもたらすために頭を働かせる機会を得ることだけだ。あなたが直接見たわけではないからといって、限られた資源を受け取れなかった人たちの苦しみが軽くなるわけではない。ナタリーの苦しみを目の当たりにすることでフィンクが知るべきだったのは、ナタリーと、ナタリーの代わりに酸素を受け取ったであろう人たちが直面していた状況、その両方がもつ重みだった。

簡単なことではないのは承知している。私たちは見知った人に本能的により強く共感してしまう。フィンクがナタリーに抱いた深い感情を恥じる必要はない。それは思いやりの大切な要素だからだ。しかし、自分の感情を優先して必要以上に多くの人を苦しめ、死に至らしめてしまうことは恥じるべきだろう。ポール・ブルームが批判するのは、こうした狭量な共感だ

世界には、完全に予防可能な原因で命を落とす人々が何百万人もいる。彼らが目の前にいないことで何が変わるだろうか。私たちは彼らが苦しんでいることを知っている。主な原因は貧困顧みられてこなかった熱帯病などで、一人あたり年間ごく少額の支出で治療可能だ。あなたにとっては、なくても困りはしない額のお金を、家の改修やフィギュアの収集ではなく、今すぐ命を救うために使えるかもしれない。私たちの一つひとつの決断は、助けられるかもしれない無数の人々の命に影響を与えているのである。

私たちは常にトリアージの中にいる。いつかすべての人を救える日が来ることを私は切望している。しかしその日が来るまでは、資源の配分によって日々多くの人の生死を左右しているという事実から目を背けることは無責任である。選択の余地などないかのように装うことは、私たちの決断をさらに悪くするだけだ。

私たちはいつでもトリアージの真っただ中にいる。すべての人を救うことができる、いつかそんな日が来ることを強く願っている。しかしその日が来るまでの間は、資源をどう配分するかによって、私たちは人の生死を左右する決定を下しているという事実から目を背けるのは無責任だ。選択の余地などないかのように装うことは、私たちの意志決定の質を下げることにしかならない。

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この日本語のテキストをほとんど分からないけど、この翻訳のプロジェクトも努力も鑑賞します。頑張り続けてください!

Although I can barely understand the Japanese text, I appreciate this translation project and your efforts. Keep up the good work!

Thank you very much for your kind words! This means a lot to us! 

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