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This is a Japanese translation of "No injuries were reported" by JulianHazell

数週間前、コネチカット州の農場の火災で10万羽の鶏が死んだ。普段の私は、工場畜産の恐ろしさをそれなりに割り切って考えることができる。しかしこの件は私の胸を痛めた。それから、鶏10万羽というのは基本的には、工場畜産業全体の規模に比して誤差に過ぎないということに、深い悲しみを覚えた。

この種の悲劇に対する世間の薄情さにも嫌悪を催した。特にある記事では、「火災によるケガ人の情報は入っていない("no injuries were reported in this fire")」と書かれていた。

不機嫌そうに黙って座っているよりも、この気持ちを生産性のある何かに変えてみようと思い、この件を題材に短編小説を書いた。閲覧注意。この物語には生々しい苦しみの描写が含まれている。この種の描写が(当然のことながら)気に障る場合には、読まないほうが良いかもしれない。

私の望みは、できるだけ忌まわしい物語をあえて書くことで、工場畜産がどれほど嫌悪すべきものであるかを直観的に理解してもらうことだ。また、このような短いフィクションの物語が、工場畜産の害や将来世代を守ることの重要性などについて意識を高めるのに役立つかもしれないとも思っている。

 

けが人の情報は入っていない

炎が、建物の骨組みを伝って広がっていく。

一羽のめんどりが、燃えさかる壁をぼんやりと見つめていた。呼吸するたび喉が焼かれる。

この瞬間、彼女が感じていたのは、生き延びようとする意欲に影を差し、次第に彼女の心を覆う恐怖の感覚だけだった。熱い、怖い、何もできない。

彼女は不安に満ちた目で、混沌の中よろめき暴れ途方に暮れる仲間たちの姿を見ていた。仲間たちのパニックと痛みの叫び声が混ざり合い、彼女を包んだ。彼女は立ち上がろうとしたが、できなかった。彼女の体は仲間たちに囲まれ、立つ隙間もなかったからだ。それでいながら、彼女は孤独だった。

けが人の情報は入っていない

彼女は気づいていなかったが、彼女ももうすぐに肉の塊になる。焼けただれた物質の塊だ。名前もなければ顔もない。誰も彼女のことを知る術はない。

彼女は自分の置かれた状況をあまり理解していなかった。

それでも、ほとんどの人間たちが考える以上に、彼女は感覚を感じる能力をもっていた。何百万年もの進化の歳月が、喜びを求め、痛みを避けるよう彼女の神経系を調律してきたのだ。しかし、彼女は生涯「痛みしか知らなかった」とも言える。

炎が彼女の神経を焼き尽くし、耐え難い痛みが彼女の体中を駆け巡った。この瞬間彼女は、この拷問部屋から逃げ出したいという原始的な衝動以外の欲求を持たなかった。しかし彼女は狭いケージの檻に監禁されており、運命の扉は閉じられていた。

けが人の情報は入っていない

彼女が感じていた孤独感にもかかわらず、彼女は語のどの意味においても、決してひとりでいたわけではない。彼女の周りには、同じように迫り来る死と格闘する10万羽の仲間がいた。群れのどこかに、阿鼻叫喚の大きなうねりの中に、彼女自身のかすかな泣き声、叫び声が潜んでいた。やがて、命のともし火が、悲鳴や羽のはためく音が、ひとつひとつと消えていき、最後には炎だけが轟いていた。全知全能の観察者がいたら、消えていった鼓動の静けさこそ、制御不能の炎よりもずっとやかましいことだっただろう。かつては多くのものがあったその場所に、いまは無が口を開け何かを語っている。

けが人の情報は入っていない

着火から1時間も経たないうちに、鶏舎は瓦礫と化した。焦げた肉、骨、羽毛、糞。10万羽以上の鶏が死んだこの火災を引き起こしたのは、おそらく暖房器具の故障だ。しかし、消防隊が到着したときには、すでに遅すぎた。

巨大な煙の塊が冬の大気を満たすことになった原因は何だったのかという一般からの疑問に応えて、マスコミはすぐに農場のオーナーに連絡を取った。「不安を感じられておられる皆様、ご安心ください」とオーナーは言った。「火災によるけが人はいません」作業員たちはすでにその日の作業を終えており、火災は鶏舎だけに留まっていた。

幸いなことに、ケガ人の情報は入っていない。


 

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